
特別な舞台で成し遂げた2連覇【日本代表・徳田新之介選手】
シーズンの年間王者を決める舞台、プレーオフ。男女計200試合以上におよぶレギュラーシーズンの上位4チームのみが出場権を得ることができる、名実ともに日本ハンドボール界における最高峰の舞台である。
一握りの選手しか立つことが出来ないプレーオフのコートには、そこを経験した者のみが知り得る感情や景色が
ある。今回、豊田合成ブルーファルコンで大会2連覇を達成し、現在はカタール・アルドゥハイルでプレーをする
日本代表・徳田新之介選手に、自身が経験したプレーオフを振り返ってもらった。
選手の実力を引き出す特別な舞台
徳田選手は大学卒業後、国内ではプレーせずにハンガリーでの海外挑戦を選択し、豊田合成には2019-20シーズンから加入した。そして2021年3月14日、国立代々木競技場で開催されたプレーオフFINALが自身初のプレーオフとなった。
「小学生のころは、テレビ中継されていたプレーオフの決勝を録画して何度も観ていましたが、いざ自分がその舞台に立つとやっぱり特別なものを感じました。それまで戦ってきたレギュラーシーズンや日本選手権などの大会と比べても一番緊張しましたし、一番気合いが入った試合でもありました。」
プレーオフ、特に決勝戦であるFINALはプレーの質はもちろん、演出面や観客の雰囲気なども、レギュラーシーズンと比べて凄みが増す。実際に試合中にプレーしているときの感覚を、徳田選手に振り返ってもらった。
「観客の多さもそうですし、テレビカメラやカメラマンの数も普段より多いので、そういう面でも特別感を感じます。個人的には観客のみなさんに良いプレーを見せたい、かっこいいプレーを見てもらいたいという想いがありますし、
そこがモチベーションに繋がっています。そういう意味でも、プレーオフの舞台は選手の実力を最大限に引き出す
舞台だと思っています。」

苦しい状況から立ち直り、2連覇を達成
豊田合成は2020-21シーズンのプレーオフFINALで勝利し、チーム創設以来初の優勝を成し遂げた。翌シーズンも
レギュラーシーズンを首位で駆け抜けたが、プレーオフ前最後の5戦だけ見れば2勝1分2敗と、
決して好調というわけではなかった。
「ラスト5戦の中でトヨタ車体に大差で負けて、最終節の大同特殊鋼戦もなんとか引き分けということで、正直チームの雰囲気としてはあまり良くありませんでした。ですが、大同戦の前のトヨタ自動車東日本との試合で得点差を大きくつけて勝つことができていたので、(首位通過には)最悪引き分けでもいい、という状況を作り出せていました。
首位通過がプレーオフ優勝の鍵、ということは選手・監督で共通理解できていましたし、そのあたりのマネジメントをしっかりできていたことが、メンタル的な余裕にも繋がったと思います。」
プレーオフFINALの相手は、レギュラーシーズンで敗北を喫したトヨタ車体。前半から固いディフェンスと確実な
オフェンスで試合を優位に進め、31-28で豊田合成が勝利。2連覇を達成した。当時の試合の振り返りと、
2連覇の要因を徳田選手に聞いてみた。
「前半は自分たちのペースで試合を運ぶことができましたが、後半は外国人選手のマークが厚くなり苦しい時間帯も
ありました。そんな中でも僕や田中大介選手のような、あまり出場時間の多くない選手が試合を打開したというところで、合成のチーム力を見せることができました。」
「連覇の要因は、他のチームと比べて”徹底”ができていることだと思います。例えばディフェンスでは、相手チームのキーマンに仕事をさせないことが、特に大事な試合ではチームとして実行できていました。昨シーズンのFINALでも
アグレッシブなディフェンスができていましたし、今シーズンもそれをベースに完成度が上がっていると思うので、
他のチームにとっては攻略するのがかなり難しいのではないかと思います。」

初の愛知県開催。エントリオの魅力とは?
今年3月に控える2022-23シーズンのプレーオフFINALは「豊田合成記念体育館 エントリオ」で行われ、初の愛知県での開催となる。かつてのホームアリーナであるエントリオの良さを、徳田選手はこう語る。
「個人的には日本で一番の会場だと思っています。大きすぎず小さすぎず、お客さんの熱気も相まって試合のときは
とても熱狂的な空間になります。そんな雰囲気もあってか、他の会場と比べてプレー中の動きが良くなる感覚が
あります。選手としての自分のレベルをもう一段階引き上げてくれるような、そんなアリーナだと感じています。」
エントリオの特徴の1つは、コートと観客席の近さである。選手たちの会話も聞こえてくるような近さから、
大迫力のプレーを目の前で観戦することができる。徳田選手も、選手と観客との距離は「近いほうがいい」と語る。
「僕は試合中、観客席で応援してくれる方の表情をよく見ます。そういう方々の喜んでくれている姿や熱中している
姿を見ると、僕の気持ちも同じように熱くなります。なのでエントリオの近さは個人的にすごく好きですし、
観に来てくださる方にとっても、ハンドボールがより魅力的に映るんじゃないかと思います。」

プレーオフにはハンドボールの面白さが詰まっている
プレーオフは日本のトップリーグであるJHLの中でも、一握りの選手しか立てないステージ。日本代表での国際試合をはじめ、世界を舞台に活躍する徳田選手にとっても、そこは「特別な舞台」であると言う。
「プレーオフは人生で一番なんじゃないかと思うくらい緊張した舞台です。2連覇を達成しましたが、
そのどちらも豊田合成の応援団の方がたくさん会場に来てくれて、得点が入る度に会場が沸いて、
そこにガッツポーズをしたとき、選手としての喜びを感じました。今は海外でプレーしていますが、またいつか、
あの特別な舞台に立ちたいという気持ちは持っています。」
最後に徳田選手からハンドボールファンの方々へ、プレーオフの見所を含めたメッセージをいただいた。
「プレーオフは上位4チームしか出場することのできない、その年の最後の戦いになります。
日本で一番レベルの高い試合になるので、ハンドボールの面白さがそこで感じられると思います。
ぜひ会場で観ていただきたいですし、会場に行けない方も配信で楽しんでいただければと思います。」